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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(し)6号 決定 1950年 3月 30日

主文

本件特別抗告を棄却する。

理由

代理人柴田勇助特別抗告理由について。

所論は被告人は保釈された者ではあるが大阪簡易裁判所で懲役一年の判決を言渡されたので刑訴三四三條の規定によって被告人に対する保釈はその効力を失うことになり、これによって被告人は最早や保釈された者でなくなるから、被告人が納めた保釈の保証金の返還請求権を取得したわけである。されば大阪簡易裁判所が刑訴九六條三項を被告人に適用して保釈保証金を沒取する旨の決定をなし、原審がこの決定を是認したのは法令の適用を誤った違法を犯したものであるのみならず、被告人の保釈保証金返還請求権の行使を妨害するものであるから、憲法三九條に違背するものであるというに帰する。しかし、刑訴九六條三項には「保釈された者が刑の言渡を受けその判決が確定した後、執行のため呼出を受け正当な理由がなく出頭しないとき、又は逃亡したとき、検察官の請求により、決定で保証金の全部又は一部を沒取しなければならない。」と規定されているから、被告人が禁錮以上の刑の言渡を受け、従って刑訴三四三條の規定により保釈の効力を失っても、勾留状の効力は消滅しないから保釈保証金は直ちに納付者にこれを返還すべきものではなく、同條末段、九八條の規定により被告人が収監された後又はその原判決確定後執行のため呼出を受け出頭した後でなければこれが返還請求権がないものといわなければならない。蓋し「勾留」の目的は審判のためにのみ被告人の身柄を保全するものではなく、判決の効力すなわちその執行確保の目的をも有するものであるから、保釈保証金は勾留状を執行された被告人が禁錮以上の刑の言渡を受けた場合においては確実にその刑の執行に着手せらるべきことをも担保するものと解すべきであるからである。しかるに記録によれば、被告人は所論のように昭和二四年四月一日保釈されていたところ同月二一日懲役一年の判決を大阪簡易裁判所において言渡されたので刑訴三四三條により被告人に対する保釈はその効力を失ったわけではあるが、被告人は右判決の言渡を受けるや直に所在をくらまし、検察当局が捜索しても行方が判明せず、その間同年五月六日右判決は確定し、同年九月一五日に至って大阪市警視庁掏摸犯係員に逮捕されたものであるから、被告人の場合は明瞭に前記刑訴九六條三項に該当しその保釈保証金の返還請求権を取得するいわれは毛頭ない。されば被告人に対して右九六條三項を適用し保釈保証金を沒取する旨の大阪簡易裁判所の決定並びにこれを是認した大阪高等裁判所の決定は正当で何等の違法もなく従って所論はその前提において採るを得ない。

よって刑訴四三四條四二六條に従い主文のとおり決定する。

この決定は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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